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2010年 01月 12日
ペルガモ歌劇場の二つ目の演目は「愛の妙薬」だった。作曲者ドニゼッティの生まれ故郷のオペラハウスだからそれなりだろうとは思っていたが、これが天下の名演だった。先の椿姫では何かと欠点の方が目立ったオペラハウスだったが、今回は生涯で記憶に残る公演の一つになること間違いない。主役二人が素晴らしい出来だった。テノールのロベルト・イウリアーノは二幕の「人知れぬ涙」を絶唱ともいうべき歌いっぷりだったし、コロラトゥラのデジレー・ランコトーネの透明感あふれる超絶技巧は観客をうならせた。のみならず、コミカルな二人の演技力はお芝居もかくや、というくらいのもので、さらに、脇の軍曹、ペテン師、それにジャンネッタが全て粒ぞろい。
大体はまり役というか、この人しかない、みたいなお話は昔から多い。旧いやつだとお笑いでしょうが、鞍馬天狗の嵐寛寿郎に始まって、寅さんの渥美清にいたるまで、これはこの人を措いてない、という役所である。オペラの世界にもそんなものがあって、オテロは先ず「黄金のトランペット」ことマリオ・デル・モナコの右に出る人はいるまいし、ルチア狂乱ならグルウ゛ェローバだろう。同じように、ネモリーノはもうこれはルチアーノ・パヴァロッティだとしたものだ。それが、もしかするとこのテノールはそんな域に達するのではあるまいか、とさえ思わせた。 そもそも年を取ると偏屈になって、昔は良かったが信念になる。これは聞いた話だから真偽の保証はしないが、デル・モナコ全盛期にも、「なに、カルーソーに較べたら」というお年寄りは結構いたのだという。これほど変化の激しい時代に高齢者の端くれになると、都電が青山通りを走っていたのを知っているどころではなく、乗って学校に通っていたり、電話がなかなか引けなくて、名刺に呼出しを意味する(呼)なんてのを麗々しく印刷したのを貰ったこともある。そんな話をしようものなら化石扱い疑いないから、せめてオペラの話くらいなら聴いてくれる人もいないでもない。 最近は舞台の袖に歌の日本語訳が表示されるが、ついこの間まではそんな便利なものがなかった。だからよほど台本を下読みしてか聴きにゆかないと、意味はとれないことになる。それかあらぬか、日本語でオペラを、みたいな話があって(もっともこれは日本に限らず英語圏で今でもある)聴いたことがあるが、いまいち。大げさな身振りで「御身を愛す」なんて歌われたらしらけようというものだ。のみならず、歌の翻訳というのは、なぜかプロの翻訳者ではなくて歌手がやっているケースが多い。当然テキストから遊離しているのだが、誰も気付かなかった、みたいなことも稀ではなかった。 話が飛んで恐縮だが、オペラの帰り、ふぐを食べて帰った。ドニゼッティを聴いて帰りにひれ酒が飲める、なんていうのは世界中で日本しかない。いろいろモノ申したいことも多いが、良い国に生まれたものだと思う。
by akirairiyama
| 2010-01-12 00:20
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