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2008年 12月 16日
このブログを開いて、早いものでもう一年になります。この間に読んで頂いた多くの方に感謝致します。これからもご愛読賜りますよう。
さて、永く一度見たいと思っていた今は亡き鬼才ベジャールの振り付け、黛敏郎作曲の東京バレー団の「歌舞伎」に行ってきた。もう十回も観た、という友人に言わせれば「今頃かい」という話だが、とても面白かった。お話は忠臣蔵なのだが、師直が塩谷判官をいびるところなどはバレーならではの見せ場で、討ち入りの群舞と共に堪能したことだった。バレリーナが六方を踏んで見栄を切る、なんて考えてみたこともなかった。読者の中にまだご覧になっていない方がいらしたら、是非一見をお勧めしたい。もっとも、西洋と東洋の融合さらには共通項の存在ということそれ自体は何も珍しいことではないのかもしれないのだが。 例えば永竹先生にいわせると、歌舞伎とオペラというのは極めて共通点の多い芸術で、ほとんど二卵性双生児とも言えるのだという。だから、彼に言わせると第二次世界大戦はオペラ文化を持っている国と持っていない国の戦争(フランスのは、あれはオペラのようなもので、本物とは言えない由)で、当然のことながら文化的な方が負けたのだという。(永竹由幸「オペラと歌舞伎」丸善ブック)それはともかく、歌舞伎にはとんと縁のない明け暮れを送った人生だったが、オペラには随分人生を豊かにしてもらったという感が深い。閑話休題。明治政府の欧化政策以来、小学校から始まる音楽教育も西洋音楽一辺倒だし、演歌の世界も、長唄・小唄と違って西洋出自の楽器の存在が前提になっている。他方で能楽鑑賞をカリキュラムに入れている学校というのは寡聞にして聞かないし、子供にピアノ・ヴァイオリンを習わせる家庭に比べて、お琴・三味線のお稽古というのはほとんど絶滅寸前ではないだろうか。片や欧州で東洋人の弦楽器奏者を抜きにしたオーケストラは考えにくい、とか、世界一流と言われるクラシックのソリスト、指揮者に数多い日本人の存在と照らし合わせて考えると、どうもわれわれは奇妙な世界に生きていることに気が付く。 奇妙さというのは、われわれは「あちら」を取り込むことには一生懸命だが、その逆に「こちら」の価値には割に無関心だというところにあるのかもしれない。フェノロサやイザベラ・バードは何も昔の話ではなく、ノーベル賞をもらってあわてて文化勲章を出す、なんていうのにはもう誰も驚かなくなっている。ところが、日本伝統の古典芸術に国家予算を振り向けるのには何とはなく説明抜きで納得するが、オペラやバレーさらにはシンフォニーなど西洋芸術に使うとなると些かの説明を要するのみならず一苦労だ、とはその業界に関係する友人の嘆くところだ。 トーストにコーヒーの朝ご飯(?)が過半数の国で、である。なに、どちらも一流品とそうでないのが存在するだけで、洋の東西は関係ないよ、という人もいる。存外真相に近いのかもしれない。
by akirairiyama
| 2008-12-16 00:38
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